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11|2026.02.27

あらゆる交点を探って 後半

野見山 桜

昨年11月11日(水)に2025年企画展「ON  THE GRID」のデザインワークを手がけた熊谷彰博さんをお迎えし、トークイベントを開催しました。既に公開している前編の記事では「ON  THE GRID」のデザインワークをご紹介しました。後編となる本記事では、熊谷さんのお仕事をいくつかご紹介します。


とるにたらないもの
普段から様々なものを収集している熊谷さん。スタジオの壁には大きな棚があり、そこには出張先や旅で出会ったものや骨董市や日用品店、地域にあるホームセンターといった場所で見つけたものが陳列されています。そんな日々の営みが結実したお仕事が、最初の話題としてあがったお仕事、無印良品の「STOCK」展です。無印良品の池袋西武店が主催した展示で、会場となったのは無印良品の店舗の横、西武ギャラリー。収納に関する展示の手前に、別の企画を考えてほしいという相談があり、展示監修と会場構成を担当されました。中学生から80代のシニアまで、デザインに関する仕事をしているかどうかは関係なく様々な方にお声掛けして28名の方々が展示に参加しています。

STOCK展 展示風景 写真: Gottingham

一番右のオレンジ色味のものはタイのダンボール。 一番左はアメリカとカナダで多いバージンパルプ100%のもので色が濃く、強度も強い。ダンボールにもそれぞれの国柄があることが分かる。展示では織咲誠さん自身が整理して把握できている状態が示された。写真: Gottingham

80代のおばあちゃんが子供の頃から集めていた包装紙と包装用シール。 お湯を沸かしているやかんから出る湯気にシールの糊部分を当てるときれいに剥がせる。お土産をいただいた時にとても嬉しくて、子供ながらにそれを集めていたそう。写真: Gottingham

STOCK展 展示風景 写真: Gottingham

展示には流通で一般的に使われているパレットに加え、当時無印良品で販売されていた収納のための製品を利用。書類などを収納するためのバンカーズボックスは積み上げて空間の仕切りにしています。人の目に入る面には、整理や分離を彷彿させるいろんなキーワードが貼ってあり、鑑賞者の想像を掻き立てる補助になっています。展示の立案から構成・デザインなどを含めて、制作の全体を通して一貫性のある世界観が作りこまれていますが、それに加えて丁寧に鑑賞者とコミュニケーションを図ろうとする工夫がちりばめられています。グラフィックデザインは岡本健さんに依頼。全てを自分でやりすぎない、適度なバランスを考えながら他者の意見を聞きながら見せ方の可能性を探ったそう。来場者は、各展示物にまつわる情報―それらを収集した人について、それらが収集された理由など―が掲載されたファイルを参照しながら見てまわるのは、岡本さんとの対話からでてきたアイデアでした。

STOCK展 展示風景 写真: Gottingham

出展協力してくださった方々全員に展示作業に立ち合ってもらうことは難しかったため、展示物の配置や見せ方については、一部の方々を除きほとんどが熊谷さんにお任せだったとのこと。各者への取材を基に、それぞれの収集物に対する眼差しを展示方法に反映したといいます。また展示物が実際に使われている様子の写真を一緒に見せることで、展示物とその持ち主の関係性がより身近に感じられるようにしました。展示物が多種多様な場合、展示全体にまとまりを持たせるのは難しいように思うのですが、お話をうかがっていると演出を揃えすぎることは展示の趣旨とは異なる印象を生み出すことにもなりかねません。そこで熊谷さんが全体のバランスを調整するために駆使したのが無印良品のステーショナリーやアクリル製の収納ケースなど。控えめな存在感ではあるけれど、全体の調子を合わせるのに役立ったそう。

「そこにはモノと人の関係性があり、そこをどのような方法で展示として見せるかが大事になります。とるにたらないものが並んでいるので、一見すると人によっては価値がなかったりとか、なんでこんなものをって思うかもしれませんが、説明のテキストを読むとすごく意味合いが変わってくる。突然価値があるように見えてしまうっていうところがあって。ものの魅力だけじゃなくて、人との関係性で価値も変わることを展示で伝えることができたんじゃないかと思います」

中学校1、2年生ぐらいの子が収集していた折れたシャープペンシルの芯。 中学校に上がった時にシャープペンシルを初めて使えるようになったのが嬉しくて、 折れた芯を集めては、プラスチックケースに入れてシャカシャカと鳴らしていたそう。写真: Gottingham

集められた多様な「とるにたらない」ものを見ていると、それぞれを収集した人の活動や人柄に接続することもあれば、その人が生み出す形との関係性やつながりが見えてくることがあります。特に熊谷さんが心に残っていると話してくれたのが、プラスチックケースに入った無数のシャープペンシルです。写真では瞬時に何か判別がつきませんが、説明を聞いた時には私も大きく頷かずにはいられませんでした。シャープペンシルの芯が折れるという多くの人が経験したことのある現象、そして小学生から中学生にあがるときに手にした新しい文房具への高揚感、さらにはそこに個人的な愛着がつながって生まれた収集物で、収集した人独自の視点が際立っています。

「人がまだ見つけていないことや、ほかの人には理解されないけど自分では何か良いと思えるポイントを貯めていくと、それがいつか役に立つことは多くある。」

STOCK展には、「気づきを備える」という副題がついています。現代においてネットが一般的になり、参照するものが増え手軽に色んなことを知ることができますが、その一方で情報が氾濫しているのも事実。こんな時代だからこそ独自の参照先があることの重要性を指摘します。「インプットする情報が人と違えば、アウトプットも違ってくるはず」と熊谷さん。

 

どこか昔からあったかもしれない…記憶とつながる

⽇榮新化株式会社(NEION)は、スマートフォンの液晶画⾯保護フィルムをはじめ、サイン・ディスプレイ、建築装飾、POPラベルなどに使用される「粘着フィルム」を開発・製造・販売するコーティング技術の総合メーカー。1957年代創業。写真: Kohei Yamamoto

五十嵐威暢が数多くのコーポレートアイデンティティ(CI)を手がけたことを念頭に置いてご紹介くださったのが次のお仕事、総合タックメーカー、日榮新化株式会社のCIです。NEION(ネイオン)とは、会社の通称であり、同時期に制定されたマスターブランドでもあります。4本の縦線(矩形)のみで構成されたシンボルは、名称に用いられているNをモチーフにしたもの。とてもシンプルなので一目で覚えてもらえそうです。一方で気になったのが、明快な造形のなかに独自性を示す難しさです。人に覚えてもらえるようなインパクトのあるマークを作ろうとすると、単純な形を用いたほうがいいけれど、その分多くの人たちが類似したマークを作っている可能性が高くなり、商標登録をする際のハードルが高くなります。そこで熊谷さんが重視したのは、アイデンティティに会社の姿を反映することでした。「誰でも一度見たら書けるようなシンプルさや力強さを持ちながら、(業務として)やっていることと形の持つ意味が合致する」ことを前提に、その会社が提供する製品やサービスとの関連性が盛り込まれています。基板やフィルムの層の重なりをNに準えて見ることができますし、それぞれの縦線を少しずつずらして斜めに配置することでダイナミックさと動きが表現されています。こちらは会社がスローガンとして掲げている「漸進」や「新しいチャレンジ」を意識してのこと。一層、二層、三層は提供する技術や商品を彷彿させ、四層目は、新しいことへ向かう余白を表現しています。意味と形が折衝しながらあるべき姿に向けて少しずつ整えられていくなかで、ユニークさが自ずと立ち上がっていく様子が想像できました。

かつて使用されていたマークとの比較

印象に残っているのが、どれだけ会社のイメージを新しくするかという程度設定についてのお話。熊谷さんは会社名変更のタイミングで依頼を受け、アイデンティティのデザインに取り組んだそうですが、過去から継続して引き継いでいくことと、新しくすることのバランスの調整をクライアントと丁寧に擦り合わせたそう。熊谷さんの言葉を借りれば、「馴染みはありながら、新しさを抱かせる」ものを生み出すこと、それは名称から始まり、マークの形にまで一貫しています。参考に見せてくださったのが、歴代のマークでした。かつて使用していたマークのなかには、熊谷さんが大切にしたいと考える「起源」がありました。圧着に用いる機械のローラーと、そこを通るシートの様子をマークにしたものは過去にもあり、それを基にして形が最終的に出来上がっていったそう。色の話を例に挙げれば、NEタックのNのグリーンは昔のマークを参照しています。トーンを明るくして、実用の観点からPANTONEやDICでも選びやすい色に調整しながらも、一つの色に会社の変遷を感じさせることを意識したそう。

使用される多様なアプリケーションを細かく想定しながら、ロゴの展開を決めていくなかで、収まりはとても重視したそう。写真: Masaki Ogawa

 

使い手に委ねる

カラーバリエーションが豊富。半円筒が一周したフォルムはスケートボードパークのように見えると親しまれているそう。

続いてご紹介があったのは、プロダクトのお仕事。福井の鯖江市で約300年も漆器業を営んできた株式会社セキサカのプロダクトライン「SEKISAKA」から販売されているトレイについてです。鯖江の漆器産業は、時代の変化に応じて培った技術を様々なかたちで応用してきました。旅館や料亭で配膳する器やトレイに代表されるように、食樹脂や合成木材を用いたものを漆風に加工する技術もそのひとつ。熊谷さんが手がけたトレイは、横長で、上から見ると楕円と長方形の中間に位置するような形です。中央には低い仕切りがあり、底面は丸みを帯びています。 作り方を考えるときに、最初に参照したのは漆器の素地となる木工のお椀を削り出す轆轤の技術でした。木地を回転しながら削り出す手法を転換して「ボールが通って、それが溝になっていくようなイメージ」で、オーバル状のものから削り取っていく、塊から形を切削していくような形を思い浮かべたそう。表面から見ると木工的な精緻に削られて生まれた柔らかな丸みがありますが、裏返してみると表の佇まいとは異なり、ダイナミックさを感じさせます。

「ステーショナリー/カトラリー/アクセサリーなど、ものの定位置が決まってくるような、ゆるやかな仕切りには造形的な心地よさみたいなのもあるなと思いました。それによって両方の面を見てどちらでも使える可能性がでる。どちらでもいいっていう使い方の余白があるというか…」

サングラスやカギを置いたり、小物を置く場所にもなる。

用途を決めつけすぎない形にすることで使い手の自由度が高まり、使う人によって使われ方が変わる可能性を残したそう。製造上の技術やプロダクトとしての機能、形が示す意味、様々な要素において「間」(あわい)を楽しむことを根底に据えたプロダクトです。ちなみにパークという名称は、その名の通り公園を示しています。人が集まり、それぞれ自分の方法で遊ぶ間を意識してのこと。
 私も普段から緑色のトレイを使用していますが、そのなかで気になっていたのが、少々ざらついた触り心地でした。当初は滑らかな塗装で試作していたそうですが、リサーチを通じて、そして関坂さんとお話をするなかで、粉をまぶしながら塗られることで細かな凹凸を生み出す技術があると知り、試してみることになりました。その結果、公園にある石畳やコンクリートで固められた遊具の表面を思わせる質感が生まれ、採用することに。トレイの独特の存在感は、形状、表面加工、色といった造形を構成するさまざまな要素が絶妙に調合されることで成り立っていることが分かりました。

 

世界と世界のあいだに立つ
最後にご紹介いただいたのは、GOOD GOODS ISSEY MIYAKEでの展示のお仕事でした。文字量の関係で詳細は本記事では割愛しますが、その話のなかで熊谷さんが発していた言葉に共感したので最後に引用させていただきます。

「見る人が自分で発見したことは、強く記憶に残ると思っています。そうした気づきが生まれる機会をつくっていきたい。」

熊谷さんが展示のディレクションやデザインを手掛けるときにいつも心がけていることは見る側の能動性を引き出すことだそう。 展示デザインにおいて、どこまでデザイナーが見え方をコントロールするかという点は重要な問題です。過度に手を加えるとデザイナーの色が濃く出すぎ、演出過多になってしまったり本来伝えたいメッセージから距離が離れてしまう一方で、そのまま置くだけでは、「見る」対象としての存在感が薄れてしまいます。どれだけ展示のコアとなる部分を物自体に依拠させられるか。その匙加減に、熊谷さんらしさを見ることができるように思いました。
 本トークには「あらゆる交点を探る」というタイトルをつけています。当初このタイトルは、熊谷さんが多岐にわたる活動を展開していること、すなわち創作が交わる点の多様さを示す、表層的な意味合いを想定していました。しかし本稿をしたためるにあたり、改めて内容を振り返ると、より深い層でも同様のことが起きていることに気づかされました。 デザイナーは、社会と物事をつなぐ媒介のような存在です。社会に寄り添いながら生み出すものに形を与えることもあれば、自身の視点を前面に押し出すこともあります。そのバランスは、デザイナーの性格や取り組むプロジェクトの性質によって異なります。その点で熊谷さんは、自分の視点で見えている世界をぱっと差し出しながらも、それを他者の世界に存在させるために、どこに「重なり」が生まれるのかを丁寧に探っているように思いました。自分の世界と他者の世界とで、共通する部分とそうでない部分を見極め、そのあいだに入り込む余地を探っているとも言えそうです。そう考えると熊谷さんは、「交点」という極めて限定された重なりではなく、ベン図でいう積集合のように、面として物事を捉えているように思えます。それは、熊谷さんがプロダクトに用いていた「間」という表現にもつながりますし、さまざまな事物を参照する際に、どこまでを対象とするかというフィルタリングの設定にも通じているように感じられます。さらにそれは、使用者や見る側に可能性を残そうとする態度にも、確かに反映されているように思いました。

動画では記事で紹介しきれなかった内容もお届けしています。ぜひご覧ください。

野見山 桜

五十嵐威暢アーカイブ ディレクター
企画展「ON THE GRID」担当

11|2026.02.27

あらゆる交点を探って 後半

野見山 桜

熊谷彰博さんのスタジオ

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