IGARASHI TAKENOBU Archive

01|2023.10.27

五十嵐威暢アーカイブの

POINT OF VIEW

野見山 桜

POINT OF VIEWは、五十嵐威暢アーカイブのWEBメディアです。アーカイブの所蔵作品や資料、展示、プログラムなどについて様々な角度から情報を発信するために立ち上げられました。アーカイブのスタッフ、金沢工業大学の学生、教員、さらには外部の方々を執筆者に迎え、それぞれの視点から綴られた様々な文章を集めるプラットフォームです。

五十嵐威暢アーカイブの活動において、「見る」ことはとても重要な意味を持ちます。なかでも所蔵作品や資料の展示を通じて、「見る」ことの可能性を探りたいと考えています。視覚は人間の知覚の大部分を占めているとよく言われますし、重要な情報源であることは明らかですが、不思議なことに私たちは幼いころから大人になるまで「見る」練習をすることはありません。誰かに「よく見なさい」と言われたことがある人は、少なくないでしょう。しかし、よく見るって一体どういうことなのか、なにをどう見たらよく見ることになるのか、戸惑ったことはありませんか。私は以前、車の教習場で「あなたは見ているふりをしている」と教官に言われ、ドキッとしたことがありました。教本で習っているはずなのに、実車で試してみるとサイドミラーで何を見たらいいのか混乱してしまった私は、どうやら見るふりをしてしまっていたらしいのです。いや、実際にミラーは見ていたのですが、どう見たらいいのかを理解していなかったのだと思います。

見るという行為自体に正しい・誤りはないですが、どう見るかによって私たちが目で認識できる範囲や程度、あるいはそこから得られる情報の深度は変わります。もちろん、それによって周囲の捉え方も変わるでしょうし、もっと言えば世界の捉え方も変わるといえます。また、見えるものは人によって異なります。例えば、複数人で同じものを見ているときに、みんな同じものを認識していると思いがちですが、それぞれの人が注目している箇所が異なるというのはよくあることです。「これは何ですか?」と聞けば、みんな似たような答えを言うかもしれませんが、「最初に目に入った箇所はどこですか?」と聞けば、答えは異なるでしょう。「視点」が違うからです。このように「見る」という行為は、厄介で、でもとても面白いものです。自分が見えるものも、他の人には見えないこともあるし、その逆もあります。しかし、それを知ることで「自分」がどんな視点を持ち、見方をもっているのかを理解することができます。また、他の人の視点や見方を理解することもできます。

このように様々な視点の記事を盛り込みたいという思いを込めて、POINT OF VIEW(視点)というフレーズをメディア名にしました。今後ここで発信される記事の多くは、アーカイブの活動に伴って「見る」ことを起点にしたものになるでしょう。見えたものについて、見て理解したことについて、見て考えたことについて、見て感じたことについて、など「見る」という行為で得た様々な感情や思考の動きが文章という形でアウトプットされたものになります。微細な心の動きや違和感もここでは重要なトピックです。大したことではないと思われていることも言語化されることで、新たな気づきや創造のきっかけになることもあります。記事を通じて、そうした副産物との出会いを楽しみにしていただけると幸いです。

(五十嵐威暢アーカイブ 主任専門員・学芸員)

野見山 桜

五十嵐威暢アーカイブ 主任専門員・学芸員
デザイン史家、デザイン研究家として、デザインに関する展覧会の企画や書籍・雑誌への原稿執筆、翻訳を行っています。専門は近代デザインです。企業やデザイナー、建築家によるプロジェクトに研究者として参加することもあります。女子美術大学、東北芸術工科大学、多摩美術大学非常勤講師。

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